AI-MATE EVENT REPORT / TOKYO

流ちょうに話せれば、
それでいい?

AIで「話す・聞く」の練習と評価が一気に効率化した今だからこそ、見えてきた新しい課題。2026年3月22日の東京研究会を振り返ります。

2026.03.22東京開催対面+オンライン実践×研究

生成AIによって、英文から音声を作る、AIと何度でも会話する、音読やスピーキングをその場で評価する――そんなことが簡単にできるようになりました。今回の研究会で考えたのは、その「便利さの先」です。

AIで練習量は増やせるでも、評価しすぎて学習者を疲れさせていないか。
AI音声はかなり自然でも、「作れる」と「教材として使える」は同じではない。
ポーズは減らせるでも、ポーズが少ないほど「よい発話」なのか。
01

AIで「話す・聞く」が一気に効率化

石飛 守氏|AI-Mate代表理事・教育テック大学院大学
石飛守氏の発表風景
AI時代に生徒の「話し方」がどう変わるのかを問題提起。

Text-to-Speech教材、AI英会話、音読評価などを参加者とともに体験。これまで教師一人では十分に確保できなかったリスニング・スピーキングの練習量を、AIで大きく増やせるようになったことが紹介されました。

一方で石飛氏が強調したのは、簡単に評価できるようになったからこそ生じる危険でした。

評価疲れ苦手な生徒ほど、毎日のように低い数値を突きつけられ、ストレスを感じることがある。
評価だけになる危険「何点か」を返すだけで、「この生徒がどうすれば上手くなるか」という実態に即した指導が抜け落ちれば、学習意欲はむしろ下がる。
機関銃Communicator止まらず多く話すことばかり求めると、相手の反応を見ずにまくし立てる話し手を育てかねない。

参加者からも、対人関係に困難を経験してきた生徒にとって「相手に寄り添って話す」という問題は特に重要だ、という振り返りがありました。

AIとの会話が増える時代だからこそ、教師は「AIと話す時間」と「人間同士で話す時間」を意図的に組み合わせる必要がある。活動のマネジメントそのものが重要になる。
02

AI音声は自然になった。でも教材は自動では完成しない

根子雄一朗氏|東京大学教育学部附属中等教育学校教諭
根子雄一朗氏の発表風景
実際の授業教材を聞きながら、AI音声のイントネーションや速度を分析。

根子氏からは、実際の教室で生成AIをどのように音声教材へ取り入れているのかが、具体的な教材例とともに紹介されました。 参加者は実際の音声を聞きながら、イントネーション、チャンクの切れ目、話す速度、強調の置かれ方などを確認しました。

The Accent Oracle発話から「どの地域・国の英語に近いか」を可視化するツールの活用例。
英語ネットを使った題材探しAIだけで完結させず、実在する英語素材を授業へ取り込む方法。
ElevenLabs生成した音声のスピードを調整し、学習者に合わせた教材に加工。
Authentic materialsAI音声だけに頼らず、実際の英語素材と組み合わせる必要性。

現在のAI音声は、以前と比べてかなり自然になっています。それでも根子氏は、 「自然に聞こえること」と「教育的に望ましい音声であることは同じではない」と指摘しました。 AIが生成した音声には、教師が聞くと気になるイントネーションや不自然な強調が残ることがあります。

参加者からも「自分もAIリスニング教材に何となく違和感を感じていた。今回、その理由を具体的に説明してもらえて納得した」という声がありました。

さらに重要だったのが、理解度確認の問題作成です。 AIに本文を渡せば設問も自動生成できますが、実際には「何を聞き取らせたいのか」「この問題は何を測っているのか」が曖昧な問題も生まれます。

つまり、AIによって音声を作る作業はかなり自動化できても、 教材として何を学ばせるかを設計する仕事は、まだ教師の手を離れていません。 むしろAIが高性能になったからこそ、教師には「使えるかどうか」を見極める力がより求められています。

03

OINで「ポーズ」はどう変わる?

鈴木智久氏|静岡県立静岡城北高等学校教諭 / 白畑知彦氏|静岡大学名誉教授・言語習得研究機構
鈴木智久氏の発表風景
節内ポーズや発話速度とComprehensibilityの関係を解説。

鈴木氏の発表では、OIN(Online interaction with near native speakers)を継続した高校生の英語発話が、どのように変化したのかが実証データとともに紹介されました。 注目されたのは、単純な「発話量」だけではなく、発話の途中に生じる節内ポーズです。

節内ポーズの継続時間文のまとまりの途中で止まる時間がどの程度あるか。
節内ポーズの頻度本来ひとまとまりで話される部分の中で、何回止まるか。
発話速度一定時間にどの程度の語を発することができるか。
Comprehensibility聞き手にとって、その発話がどの程度理解しやすいか。

日本語を母語とする英語学習者は、英文を組み立てながら話すため、 本来なら一続きで発話される部分の途中で細かく止まってしまうことがあります。 OINを通して実際に相手と会話する経験を重ねることで、そのような不必要なポーズが減り、発話がよりまとまりを持つようになることが示されました。

そして印象的だったのは、数値上の変化だけではありません。 参加者からは、「実験前と比べて明らかに生徒の発話量が増えていた。それ自体がその生徒の成長であり、そうした瞬間に立ち会えることこそ教員の醍醐味」という振り返りがありました。 研究データの向こうに、生徒自身の変化が見えていたということです。

節内ポーズが多すぎれば理解の妨げになる一方、機関銃のようにまくし立てられても、聞く側はやはり困るという参加者の声もありました。

この発表が、その後の全体ディスカッションへ直接つながりました。 ポーズが減ることは基礎的な流暢性の向上として重要。しかし、ポーズは本当に少なければ少ないほどよいのか。 ここから「理解しやすい発話」と「心に刺さる発話」の違いが議論されていきました。

発表後のディスカッションから

鈴木氏の発表を受けて、会場ではいくつか興味深い議論が続きました。 まず出たのが、「ポーズが少ないほど、よい発話なのか」という問いです。 不要な節内ポーズが減れば、発話は確かに理解しやすくなります。 一方で、大切な語の前であえて間を取る、相手の反応を待つといったポーズは、聞き手に届く発話には欠かせません。

理解しやすい発話
不要なポーズを減らし、まとまりを持って話す。多くの学習者にとって、まず必要になる基礎的な流暢性。
心に届く発話
大切な語の前で間を置く。相手を見る。反応を待つ。伝えたい内容に応じて話し方を変える。

もう一つ話題になったのが、「OINにおける near native speakers の役割を、AIが担えるのではないか」という可能性です。 OINによって節内ポーズが減っていく要因の一つとして、インタラクションを通じて語彙や表現の選択肢が増えていくことも考えられます。

そこで、AIパートナーが学習者の発話をただ評価するのではなく、 学習者の言いたかった内容を自然な英語でパラフレーズして受け止めたり、適切な形でrecastしたりする機会を意図的に増やす。 そうすることで、学習者がAIとのやりとりの中から自然に新しい表現を取り込み、少しずつ表現力を高めていけるのではないか、という意見が出ました。

AIを「採点する相手」としてだけではなく、表現を広げてくれるinteraction partnerとして設計できるか。これは、AI時代のスピーキング活動を考えるうえで興味深い論点です。

AIでできることが増えた。だから、教師が考えることも増えた。

「AIに何をさせるか」だけでなく、
「何をさせないか」「人間に何を残すか」を考える。

AIは練習量を増やし、評価し、教材も作ってくれます。だからこそ教師には、評価を出すだけで終わらせず、「どうすればこの生徒が上手くなるのか」を見取り、必要に応じて評価を止めたり、人間同士の会話時間を意図的に確保したりする役割があります。

そして、以前より話せるようになった生徒の変化に気づき、その成長を喜ぶこと。AI時代になっても、そこは教師の大切な仕事なのだと思います。

アイメくん
アイメくんの取材後記AIで「たくさん練習できる」ようになったからこそ、その先の「どう伝えるか」が大事になる。今回の研究会は、そんなことを考える4時間でした。
※参加者の感想は、個人が特定されないよう氏名等を掲載せず、意味を変えない範囲で一部表現を整理しています。